私たちの現在は先人たちが築いた歴史の上に成り立っています。しかし近代の中国の歴史は意外と知らない人が多いのではないでしょうか
浅田次郎「蒼穹の昴」は西太后が統治していた清朝末期の中国を舞台に繰り広げられる大河的スケールの群像劇。
登場人物たちが辿る数奇な運命は涙なしには読めず、ラストには圧倒的な感動が待ち受けています。
今回は浅田次郎が世に送り出した歴史小説の金字塔
「蒼穹の昴」をご紹介します。
「蒼穹の昴」あらすじ
清朝末期の中国。
貧しい糞拾いの子どもとして生まれた春雲は早くに父に死なれ、病弱な兄や幼い妹を養っていました。
そんな春雲一家を目にかけてくれるのは亡き兄の親友で村の資産家の次男・文秀だけ。
ある時文秀が科挙の試験を受けに都に上ることになり、そのお供に春雲が選ばれます。
しかし春雲は北京で文秀と喧嘩別れをしてしまいました。一方文秀は科挙の試験に合格、役人として輝かしい出世が約束されます。
極貧から抜け出したい春雲は自ら去勢し、宦官として宮廷に上がろうと決意しました。
宮廷に出仕した文秀は旧弊の価値観に危機感を覚え、舅が率いる改革派の思想に共鳴します。
何故なら西太后は贅沢に溺れて政治を顧みず、成人した息子に位を譲らないのです。
やがて西太后に取り立てられた春雲は、腐敗しきった清朝を滅ぼすため、わざと悪女を演じる西太后の真意を知らされました。
何故西太后は国を滅ぼそうとしているのでしょうか?
その理由には彼女の祖先が国家の天命を託した巨大なダイヤモンド、龍玉(ロンユイ)が関わっていました。
汝は必ずや、あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう―中国清朝末期、貧しき糞拾いの少年・春児は、占い師の予言を通じ、科挙の試験を受ける幼なじみの兄貴分・文秀に従って都へ上った。都で袂を分かち、それぞれの志を胸に歩み始めた二人を待ち受ける宿命の覇道。万人の魂をうつべストセラー大作。
(「BOOK」データベースより)
著者 浅田次郎 出版社 講談社 発売日 1996年4月17日
「蒼穹の昴」ネタバレ感想
本作は大河的スケールで展開される歴史小説の金字塔にして、有名無名問わず様々な人物の生き様が魂を揺さぶる群像劇です。
作者の浅田次郎は中国史に大変造詣が深く、激動の清朝末期を生き抜いた人々の姿を克明に描き出しました。
春雲は寒村の百姓の子として生まれ、糞拾いで辛うじて生計を立てています。
その絶望的な状況から抜け出す為自らに去勢を施し、宦官として西太后に仕えるものの、彼を待ち受けていたのは権謀術数渦巻く魔窟と化した宮廷の闇でした。
「蒼穹の昴」には歴史上の偉人が多数登場します。代表格といえるのが西太后で、彼女は清朝を滅ぼした悪女として後世に語り継がれています。
ところが本作において描かれるのは、非常に人間臭く魅力的で、誰もが好きにならずにいられない西太后の姿。
実の所過去に何があったのか、その場に居合わせなかった私たちは知る術を持ちません。西太后が史実通りの悪女なのか、歴史に歪められた犠牲者なのかは誰にもわからないのです。
本作は一国の統治者にとどまらず、母として妻として、あるいは一人の女として苦悩多き生涯を駆け抜けた西太后の素顔に迫りました。
「蒼穹の昴」見どころ
「蒼穹の昴」は、登場人物が多いので最初は混乱するかもしれませんが、一度ハマれば抜け出せない魅力があります。
どんな時も真心を失わず、底辺から成り上がっていく春雲の事をあなたもきっと応援したくなるはず。
西太后と春雲が結んだ主従の絆と、それがもたらす結末には涙が止まりませんでした。
義兄弟の契りを結んだ春雲と文秀が、周囲の思惑や歴史の渦に翻弄され、すれ違い続けるのも切なかったです。
歴史小説というと難しいイメージが先行して敬遠されがちですが、本作はエンタメとしても優れており、抱腹絶倒のシーンがたくさんあります。
「蒼穹の昴」はただの記録でしかなかった人々に血肉を通わせ、小説の1ページ1ページからその息吹を感じさせました。
最高に刺激的な読書体験を味わいたい方は、本作を読んで波乱万丈の清朝末期にタイムスリップしてみませんか?
我が身を賭して国を変えようとした英雄たちの信念と、末代まで汚名を被るのを上で覚悟で民を守ろうとした、女帝の真意に打ち震えるはずです。