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【砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない】小説のあらすじと感想をレビュー

 

案内人
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もしあなたのクラスに虐待を受けている子がいたらどうしますか?

すべての子どもに友達を助ける為に必要な知識や力……実弾が備わっているとも限りません

今回は実弾を求めた少女と砂糖菓子の弾丸に縋った少女、正反対の女子中学生二人の友情と絶望的な結末を描いた青春暗黒ノベルの金字塔、桜庭一樹の「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」をご紹介します。

 

 

「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」あらすじ・ネタバレ

本作の舞台となるのは鄙びた港町。主人公は漁師の父親を数年前の海難事故で亡くした母子家庭の中学生・山田なぎさです。

なぎさにはひきこもりで生活能力皆無の兄がおり、彼を養うためにも中学卒業後は自衛隊に入ろうと考えています。

そんななぎさのクラスにある日突然都会から美少女が転校してきました。彼女の名前は海野藻屑、地元出身の芸能人の父親を持っています。

しかし少々風変わりな子で、クラスメイトたちにまるで関心を示しません。

藻屑は何故かなぎさにだけ懐き、行く先々に執拗に付きまといます。

「ボクは人魚なんです」と繰り返す不思議ちゃんの構って攻撃に辟易するなぎさ。ですが偶然にも彼女の秘密を知ってしまい、二人の仲は急速に深まっていきます。

 

その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。

(「BOOK」データベースより)

「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」感想レビュー

本作のテーマとなるのは虐待。作中なぎさは経済的自立に必要な力を実弾と称し、藻屑が撃っているのは現実逃避の砂糖菓子の弾丸にすぎないとたとえます。

この詩的で的確な比喩が、のちのちボディーブローのようにじわじわきいてきてラストの悲愴感を引き立てます。

「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」はヘビィな読後感で知られる鬱ラノベの傑作。はっきり言って後味は悪いです。

藻屑が辿る哀しすぎる運命は冒頭で提示されており、それが覆ることはありません。

ですが本作の主眼はそこにありません。

バッドエンドに至るまでになぎさと藻屑の間に起きた様々な出来事、思春期の少女たちがアンバランスな友情を育んでいくエピソードを積み重ねて見せることで、「砂糖菓子の弾丸」は圧倒的なリアリティを獲得することに成功しました。

現実でも親に虐待されている子は大勢います。しかし彼ら彼女らのすべてが加害者を憎んでいるかと問われれば否です。

被害者の子どもにとって加害者たる親は憎むべき存在であると同時に、愛し愛されたい対象でもあるのです。

その背景が藻屑の印象的なセリフ、「好きって絶望だよね」に繋がります。

鼓膜が破れて足が曲がるほど激しい暴行を加える父親を、藻屑は最後まで盲目的に慕っていました。

それは作中語られるようにストックホルム症候群に近い、共依存の心理に近いのかもしれません。

なぎさと藻屑は逃避行を企てるものの結局かなわず、物語は救われない結末を迎えました。

藻屑のような子どもを出さない為に私たち一人一人ができることは何なのか、深く考えさせられます。

 

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないの見どころ

作者の桜庭一樹は他にも「少女には向かない職業」「推定少女」「ブルースカイ」など、少女をテーマにした意欲作をたくさん発表しています。機会があればそちらもぜひ読んでください。

また、本作はけっして後味が悪いだけの小説ではありません。絶望と同時に希望も語られています。

なぎさと藻屑の触れ合いはとてもピュアで、中学生の一人称語りが生み出す青臭いまでにひたむきな切迫感が、胸をかき乱しました。

学校や家に居場所のなさを感じている思春期の読者なら、より感情移入がはかどります。

「砂糖菓子の弾丸」の対義語は「実弾」です。

秀逸な比喩による問題提起は、私たちが今生きている現実で戦っている子どもたちへと視線を導いてくれます。

子供はやがて成長し大人になりますが、大人になれず死んでしまった、あるいは殺されてしまった犠牲者の存在を忘れてはいけません。

DVや虐待のサバイバーをより近しく感じて理解するためにも、本作は絶対に読んでほしい一冊です。

 

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