近年問題視されている毒親。
DVや過干渉や経済的搾取など、子どもを所有物と見なす異常行動の数々がニュースになっています。
押見修造「血の轍」は、そんな毒親の心理に迫った
サスペンスホラーの傑作
ある意味では究極の親子関係を描き、読者を戦慄せしめました。
「血の轍」あらすじ
主人公は平凡な中学生・長部静一。彼には美しく優しい理想的な母親・静子がいます。
静子は中学生になった息子に感極まってキスするなど、少々過保護や愛情表現が行き過ぎのきらいがありました。
いとこのしげるは静一をマザコンだとからかいます。
夏休み、しげるの両親と長部一家が山登りをした際に事故が発生。崖っぷちでふざけていたしげるが転落、意識不明の重体に陥ります。
しかしこの事故には裏がありました。
転落の直前しげるは静子を「過保護だなあ」とからかい、彼女に抱き止められていたのです。
母がいとこを突き落とす瞬間を目撃した静一は情緒不安定になり……。
「惡の華」「ハピネス」「ぼくは麻理のなか」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」など、傑作を次々と世に送り出してきた鬼才・押見修造氏が、ついに辿り着いたテーマ「毒親」!母・静子からたっぷりの愛情を注がれ、平穏な日常を送る中学二年生の長部静一。しかし、ある夏の日、その穏やかな家庭は激変する。母・静子によって。狂瀾の奈落へと!読む者の目を釘付けにせずにはおけない、渾身の最新作!!出典:Amazon
著者 押見修造 出版社 小学館 発売日 2017年9月8日
「血の轍」登場人物
【長部静一】 本作の主人公で中学2年生。大人しく真面目で少し気が弱いです。母の静子とは非常に仲良しでした。
【長部静子】 静一の実母。優しく愛情にあふれた女性。息子への過干渉は常軌を逸してます。
【しげる】 静一の同い年のいとこ。日常的に彼の家に入り浸っていました。ややお調子者で静一と静子の関係をからかいます。
【吹石由衣子】 静一のクラスメイトの美少女。彼といい雰囲気になりますが静子に妨害されます。母親に捨てられた過去がトラウマになっていました。
「血の轍」ネタバレ感想
本作は母親による息子のマインドコントロールの恐ろしさを描いた漫画です。
冒頭で描かれているのは何てことない日常の光景。しかし朝食のシーンにかすかな違和感が付き纏います。
静子は息子に「あさはんは肉まん?あんまん?」と問います。
これは作中何度も繰り返されますが、よく考えれば朝食が毎日二択なのはおかしくないでしょうか。
静一は最初から物事の決定権を与えられていません。自分の意志で選んでいるように見えて、静子にコントロールされているのです。
静かな狂気を感じさせるエピソードを重ねた末静子がしげるを突き落とす決定的な瞬間が訪れ、ここから加速度的に親子関係が歪んでいきました。
支配と服従、束縛と依存。静子はことあるごとに静一に干渉し、彼の行動を制限します。
クラスメイトの女の子に仄かな恋心を抱こうものなら「汚い」と言い捨て、息子の尊厳を粉々に破壊するのですから、その辛辣さには青ざめるしかありません。
静一はそんな異常な母親を切り捨てられず苦悩します。
客観的に判断すれば静子が狂っているのは明らかですが、静一にとって唯一無二の母親である事実は否定できません。
本作は母と息子の究極の共依存を描いた漫画です。静子は中学生の息子を持っているとは思えないほど若く美しく描かれていますが、これは静一視点の描写。
彼の主観による、理想の母親としての静子に他なりません。
だからこそ第一部のクライマックスで静子の素顔が暴かれた時は、読者も静一の主観に毒されていたのだと気付いてぞっとしました。
また、静子を単純な毒親……即ち、「悪役」として描いてない点も評価したいです。
彼女には彼女の人生があり、それ故の悩みがありました。
なのに母親の枠に押し込められた瞬間、あらゆる可能性が断ち切られてしまうのは恐ろしくないでしょうか。
夫と息子、その友人や隣人に至るまで「静ちゃんのお母さん」としか認識されない人生が静子を壊してしまったと考えると業が深いです。
洗脳されていると対象に悟らせないのがマインドコントロールの条件なら、押見修造は大変上手くやり遂げました。
一体静子と静一はどうなってしまうのか、壮絶な思春期を経て大人になった静一は壊れた親子関係を再構築できるのか、今後の展開に興味が尽きません。
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