時代劇ファンなら憧れてやまない隠密と戦闘のプロフェッショナル集団、忍者。
常人を超越した身体能力を誇る彼等の仁義なき戦いを描いた小説、
「甲賀忍法帖」は山田風太郎の傑作です
今回はアニメと漫画も話題を呼んだ本作をご紹介します。
「甲賀忍法帖」あらすじ
時は慶長19年4月末、徳川家康は自らの孫の国千代と竹千代、どちらを後継ぎにするか悩んでいました。
そこで家康は甲賀卍谷と伊賀鍔隠れ、不倶戴天の宿敵同士である忍者一族を争わせることにします。
両一族の精鋭10人を選出して殺し合わせ、伊賀が勝てば竹千代に、甲賀が生き残れば国千代に跡目を譲ると決めたのです。
一方甲賀卍谷の次期頭領・甲賀弦之介は、伊賀鍔隠れの次期頭領・朧と愛し合っていました。
相思相愛の許嫁同士の二人は、祝言を間近に控えて逢瀬を重ねています。
しかし非情な運命は恋人たちを引き裂き、双方の人別帳に名前を記させました。
400年来の宿敵として対立してきた甲賀・伊賀の忍法二族。彼らは服部半蔵の約定によって、きわどい均衡を保っていた。だが慶長19年、家康によってついにその手綱が解かれる。三代将軍の選定をめぐる徳川家の紛争を、両里から選ばれた精鋭各10名に代理させようというのだ。秘術の限りを尽くし、凄絶な血華を咲かせる忍者たち。だが、そこには流派を超え、恋し合う2人の名も含まれていた…。山風忍法帖の記念すべき第一作。
(「BOOK」データベースより)
著者 山田風太郎 出版社 KADOKAWA 発売日 2010年7月24日
「甲賀忍法帖」ネタバレ感想
山田風太郎「甲賀忍法帖」は現代でも全く色褪せない傑作です。
むしろ近年流行したデスゲームものに先駆けて、バトルロワイヤル方式の能力バトルを繰り広げているのですから、山田風太郎の先見の明には脱帽します。
甲賀と伊賀は源平合戦から数えて実に四百年間、憎しみ合ってきました。辛うじて殺し合いに至らずすんだのは、服部半蔵に誓った不戦の約定の効力です。
そして弦之介と朧は愛し合い、甲賀と伊賀が和睦する未来を夢見ていました。
若い二人の夢が為政者の勝手な都合で壊され、狂わされていくのに涙を禁じ得ません。
作者自らロミオとジュリエットにたとえた弦之介と朧の悲恋は本作の見所になっています。
弦之介に想いを寄せる陽炎や朧の乳兄弟である小四郎の思惑もドラマを盛り上げていました。ラスボス・天膳の不気味な存在感も忘れてはいけません。
しかし本作の最大の魅力は、超人的な技を持った忍者十対十のバトル。
人別帖に名前が載った忍者たちは、ヒルさながら肌と肌を合わせて敵の血を搾り取るくノ一、毬のように弾んで跳躍する巨漢、なめくじのように伸び縮みする男、あらゆる蟲を使役する可憐な美少女、自由自在に他人に化ける男、あるいは周囲の景色に同化する入道と、それぞれが固有の能力を発揮します。
当然能力ごとに相性があり、一見弱そうなキャラクターでも相手の弱点を突けば勝利が可能なのです。
実際「甲賀忍法帖」におけるくノ一たちは身体能力でこそ男に劣るものの、その能力は端倪すべからずものとして終盤まで生き残っていました。
誰と誰が激突するかで万華鏡の如く趨勢が変わる為、最後まで目が離せませんでした。
「甲賀忍法帖」見どころ
本作は「バジリスク―甲賀忍法帖―」のタイトルで漫画化・アニメ化もされています。そちらも面白いのでぜひご覧ください。
昭和の奇才・山田風太郎が描く忍法活劇は、躍動感漲る文章で読者を引き付けてやみません。
シリアス一辺倒ではなく、弦之介の従者・鵜殿丈助のとぼけた言動など、くすりと笑えるユーモアが随所にちりばめられているのも素敵でした。
とはいえ甲賀と伊賀の殺し合いの主旨は譲らず、作中において血で血を洗うすさまじい戦いが展開されます。
人間くさい一面や憎めない素顔が描写され、情が移った端から脱落していくのですから諸行無常というほかありません。
裏を返せば散華するシーンこそが最大の見せ場といわんばかりに、山田風太郎の筆が唸ります。
相思相愛の間柄にもかかわらず、非情な運命に翻弄されすれ違い続けた玄之介と朧。
二人が最後に下した決断は壮絶なものでした。
面白い忍者小説をさがしているなら絶対読んでほしい一冊です。
余談ですが忍法帖シリーズは他にも多数刊行されているので、本作が気に入ったらそちらもぜひ読んでください。