人間誰しも死は恐ろしいものです。
しかし永遠に死ねないのもまた想像を絶する苦しみではないでしょうか。
大今良時「不滅のあなたへ」は、不死の少年の遥かな旅路を描いた傑作長編です。
主人公・フシの軌跡をぜひ最後まで見届けてください。
「不滅のあなたへ」あらすじ
正体不明の観測者がある惑星に投げ入れた謎の球。
この球は他者の姿を移しとる特殊能力を宿し、周囲の石やオオカミに擬態していきます。
やがて名もなき球は一匹のレッシオオカミに変身。そのレッシオオカミ・ジョアンは雪深い村に一人で住む少年に飼われていました。
少年以外の村人はもっと暖かく暮らしやすい、地のはてを目指して旅立ってしまったそうです。
故郷の村に一人残された少年は自分が世話をしていた老人たちが死に絶えた後、仲間を追うかどうか苦悩していました。
ある日遂に旅に出る決断を下し、相棒のジョアンを連れて吹雪の中に歩み出します。
しかし夢と希望にあふれる少年を待ち受けていたのは非情な現実。村人たちは旅路の半ばで全滅し、雪原に荷車の残骸と粗末な墓標だけが残されていました。
自らも大怪我を負い、旅の続行を断念した少年。仕方なく村へ帰り、息を引き取る間際にジョアンに夢を託します。
少年の最期を看取ったジョアンは彼に擬態し、地のはてへと旅立ちました。
何者かによって”球”がこの地上に投げ入れられた。情報を収集するために機能し、姿をあらゆるものに変化させられるその球体は死さえも超越する。ある日、少年と出会い、そして別れる。光、匂い、音、暖かさ、痛み、喜び、哀しみ……刺激に満ちたこの世界を彷徨う永遠の旅が始まった。これは自分を獲得していく物語。『聲の形』の大今良時が贈る、永遠の旅。真っ白な魂で世界に降り立つ、邂逅の第1巻!──現実だけが自分が誰なのかを教えてくれる。だから僕は、旅に出る。
出典:Amazon
著者 大今良時 出版社 講談社 発売日 2017年1月17日
「不滅のあなたへ」登場人物
【フシ】不老不死の不思議な存在。他者に擬態する特殊能力を持ちます。普段は初めて会った人間である少年の姿をとっています。
【観測者】フシを地球に送り込んだ謎の観測者。黒ずくめの衣装を纏っています。
【マーチ】原住民族二ナンナの集落で暮らす天真爛漫な少女。いずれ母親になることを夢見ています。
【パロナ】マーチの後見人的立場の弓使いの少女。彼女を温かく見守っています。
「不滅のあなたへ」ネタバレ感想
大今良時は前作「聲の形」がヒットした漫画家。本作「不滅のあなたへ」は現代の火の鳥ともいえる、大河的スケールのクロニクルです。
主人公のフシは他者に擬態できる性質を持ちますが、人間に化けられるのはその対象の死亡時だけ。
この条件付けがネックとなり、フシは大事な存在の死を望まずして知ってしまいます。
不老不死のフシに「死」の概念はありません。彼は何度倒されても復活し、再び歩き出します。
しかし旅の途中でフシと関わるのは寿命に縛られ、老い衰えて世代交代を余儀なくされる普通の人々。
両者のすれ違いと死生観の溝が数多い悲劇を生み、一方で感動的な別れの結末をもたらしました。
数百年、数千年を生き続けるフシの前に入れ替わり立ち替わり現れるのは、彼が以前出会った人々の子孫です。
フシは彼らとの交流や対立を通し、人の在り方や生きることの尊さを学んでいきました。
本作の主人公はフシですが、彼と接触した事で運命が劇的な変化を遂げた人々を描く群像劇とも解釈できます。
従来の価値観を根幹から揺さぶられる体験をしたいなら、ぜひ読んでください。
「不滅のあなたへ」見どころ
本作はアニメもヒットし、既に第二期の制作も決定しています。
終わらない旅路の中、フシは色々な立場の人々と出会いと別れを繰り返し様々なことを学んでいきました。
最初は無垢だったフシが自我に目覚め、守りたいものを意識する描写は胸に迫ります。
フシに感情を与えた人々の生き様と死に様も大変印象的で、彼等彼女らが最後まで貫き通した信念には心が震えました。
読者の想像を凌ぐ壮大なスケールで展開されるのも特徴。作品内において数万年の歳月が流れる為、読者自身が観測者として星の運命とフシの道行きを見守っている気分になれます。
フシの旅の最終目的地がどこになるのか、その時フシはどんな姿になっているのか、想像が膨らみました。
波乱万丈のヒューマンドラマを求めているならぜひ手に取ってください。
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