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手塚治虫【奇子】あらすじ・ネタバレ読んだ感想をレビュー

 

漫画の神様手塚治虫。

「鉄腕アトム」「ジャングル大帝レオ」など、冒険ロマンに憧れる子どもの心を熱くする王道を手がける一方で、特殊性癖の宝庫といわれる尖った漫画を描いているのはご存じですか?

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今回は手塚治虫最大の問題作、「奇子(あやこ)」をご紹介します

 

 

「奇子」あらすじ

昭和24年、復員兵の天外仁朗は日本に引き上げて実家に帰省します。

仁朗の生家は田舎の由緒正しい旧家で、老いてなお絶大な権力を誇る父親が村を牛耳っていました。

父親に挨拶を終えた仁朗は見慣れない子どもが家にいるのにびっくりします。

自分が出征中に生まれた妹だと聞かされますが、兄嫁の態度がどうにも不自然なのが腑に落ちません。

その少女……奇子は、父親に溺愛されていました。

後日、衝撃の事実が明らかになります。奇子は父親が兄嫁を犯してできた不義の子だったのです。

長男の市郎は父親に頭が上がらず、妻が手ごめにされても黙っているしかありません。

仁朗もまた家族に言えない秘密を抱えていました。彼はGHQのスパイに成り下がっていたのです。

後日、上の命令で共産主義にかぶれた男を殺した仁朗。

首尾よく遺体を始末して帰りますが、被害者の血で汚れたシャツを洗っている所を奇子と下女に目撃される失態を犯し、今度は下女を殺して逃亡しました。

全てを見ていた奇子は市郎の判断で土蔵の地下室に監禁され、死んだ事にされてしまいます。

 

復員後、GHQの秘密工作員として働く天外仁郎。久しぶりに帰る天外家は、人間関係が汚れきっていた。呪われた出生を背負い、運命にもてあそばれる奇子。地方旧家、天外家の人々を核に、戦後史の裏面を描く問題作!

出典:Amazon

 

「奇子」登場人物

【天外仁朗】天外家次男で復員兵。家族に内緒でGHQのスパイに成り下がっていました。

【天外奇子】仁郎の妹にして姪。長男・市朗の嫁を父親が犯してできた娘です。仁朗の下女殺しを目撃し、世間体を憚った市朗によって地下室に監禁されました。

【天外市郎】天外家長男で次期当主。父親に絶対服従で、自分の嫁が犯されるのを黙認していました。父と嫁の姦通により生み落とされた奇子を憎んで虐げます。

 

「奇子」ネタバレ感想

手塚治虫「奇子」は第二次世界大戦後の昭和史を網羅する大作です。

作中において戦後最大のミステリーとされる下山事件をモデルにした悲劇が発生し、これを境に仁朗や奇子、天外一族の運命が狂いだしていきました。

本作の見所はタブーを破って生まれた異端の娘・奇子の存在に象徴される倒錯エロス。

彼女は生い立ちから呪われています。旧家の当主の父が兄嫁を犯して生まれたのが奇子なのです。

仁朗の殺人を目撃した奇子は、口封じを目的として土蔵の地下室に閉じ込められ、以降二十年そこで暮らしました。

世間的には死んだ子にされ、戸籍も抹消されています。

何の罪もないいたいけな幼子が、大人の勝手な事情で二十年も地下室に入れられる……想像しただけで恐ろしくないでしょうか。

地下室に隔離されて育った奇子は、世間の常識を全く知らないまま美しく成長し、思春期に突入すると同時に性欲に駆り立てられて三男と関係を持ちます。

近親相姦をタブー視しない奇子の魅力に男たちは次々陥落し、二十年ぶりに再会をはたした仁朗までも、魔性の色香の虜となりました。

一体誰が天真爛漫な幼女を魔性の女に変えてしまったのでしょうか?

本作で嫌というほど描かれる人の欲の汚さや業の深さには、絶句するしかありません。

本作は一人の少女の数奇な運命を軸に、戦後日本の歴史を描いた意欲作です。

奇子は産まれてからずっと一族の都合に翻弄され続けた哀れな被害者ですが、最後の最後に一矢報いて、暗闇の中で微笑みました。

暗く狭い地下室で二十年以上生きねばならなかったからこそ、落盤で炭鉱に閉じ込められた際も一人だけ平常心を保てたのです。

なんとも皮肉な結末に諸行無常のカタルシスを感じました。

日本の近代史に興味がある方は、ぜひ天外家の人々の末路を見届けてください。

 

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