いまでもテレビで見ない日はないお笑い芸人・オードリーの若林正恭さん。今回ご紹介するのは初エッセイ集
「社会人大学人見知り学部卒業見込」
テレビを見ているだけでは分からない葛藤や苦しみが、若林さんならではの言葉や表現で書かれています
ですが「テレビの世界で生きる人の高尚な悩み」ではなく、誰もが感じたことのある生きづらさに、共感する人も多いのではないでしょうか。
「社会人大学人見知り学部卒業見込」あらすじ
同作は全く売れない芸人だったオードリーが、2008年のM-1(漫才の大会)で敗者復活から準優勝を果たし、一夜でテレビスターとなった頃からを振り返るエッセイ集です。
自他ともに認める「スーパーネガティブ&人見知り」である若林さんは、ブレイクを機に世界が一瞬で変わったことに戸惑い、心が置いてけぼりになる苦悩を作品の中でさらしていました。
いつか世の中から忘れられてしまうのではないかという恐怖や、インターネット上で自分の感性を「中二病」だと言われたり、好きなものを好きと言えない息苦しさにさいなまれることも。
そして売れるまではお金がなく相方と同じく風呂なしのアパートに住み貧乏生活をしていましたが、一夜をきっかけに大金が手に入ると周りの社会が優しくなるのに、ますます人間不信になっていきます。
そんな若林さんが仕事で出会った憧れの先輩や芸人仲間の言葉などから気付きを得ることで、自分の心に折り合いをつけて「人見知り」を卒業するまでを描きます。
若手芸人の下積み期間と呼ばれる長い長いモラトリアムを過ごしたぼくは、随分世間離れした人間になっていた―。スタバで「グランデ」と頼めない自意識、飲み屋で先輩に「さっきから手酌なんだけど!!」と怒られても納得できない社会との違和。遠回りをしながらも内面を見つめ変化に向き合い自分らしい道を模索する。芸人・オードリー若林の大人気エッセイ、単行本未収録100ページ以上を追加した完全版、ついに刊行!
(「BOOK」データベースより)
著者 若林正恭 出版社 KADOKAWA 発売日 2015年3月13日
「社会人大学人見知り学部卒業見込」感想
毎日のようにメディアに露出するスーパースターの内心をここまで露骨に、余すことなく晒しているのに驚きました。
また芸人という明るく見える業界の中で、繊細でなおかつ後ろ向きな言葉が連なるのにも驚きましたが、全体的には「芸人」らしくクスリとしてしまうような文章です。
若林さんは初めて社会に出て、まともに働くようになった2008年(当時30歳)を社会人1年目と位置づけています。
社会人1年目の若林さんの目から描かれる新鮮な驚き…例えば、会議にお菓子を持参したスタッフに「お土産を持ってくる文化があるの!?」
と驚いてみたり、先輩との飲み会で「さっきから手酌なんだけど!」と叱られて、だからなんだと首を傾げるなど、社会人なら誰もが一度は感じたことのある気持ちに、「分かるなあ」と深く頷く人も多いのではないでしょうか。
若林さんは「手酌」の何が悪いか分からず、図書館に走ってその理由を調べ、目上の人が食事をおごることに対しての恩義を示すためだと分かれば「あの日は割り勘だったから手酌しなくてよかったんだ」と納得したりする場面は思わず笑ってしまいました。
人生において核心に触れるような疑問も取り上げています。
「売れてお金が手に入れば幸せになれる」と信じていたのに、売れてしまうと「いつ消えるのか」とビクビクしてしまい憂鬱な日々を過ごす若林さんと、売れる前から「金がなくても仲間と遊べて幸せ」だと感じていた相方春日さんとのギャップが浮き彫りになり、幸せについて深く考えさせられるでしょう。
「社会人大学人見知り学部卒業見込」見どころ
人見知り、ネガティブなど、多くの人が持つ「生きづらさ」を多彩な表現で言語化してくれているので、自分が過去に感じた悩みに共感してくれるような心地になるのが同作の大きな魅力。
また若林さんはメンタルが弱いと自負しているにも関わらず、他人に否定されるのが嫌で自分の好きなものを口に出せない性格を改善するためにあがく姿に共感する人は多いのではないでしょうか。
実際に若林さんは心の中に折り合いをつけるように思考と努力を重ね、難しい社会の中でちょっとでも生きやすくしようと挑戦し続ける部分に励まされます。
「ネガティブの穴の底に答えがある」と思って20年間、後ろ向きな思考を持っていた若林さんのたどり着いた答えは「それはただの穴だった」も胸に刺さる言葉です。
社会参加するためには、功績などの結果が必要だと思い込んでいたのが、最後の章では「自分なりのベストを模索する」ことが社会参加だと変化するのに感動してしまいます。
※社会人大学人見知り学部卒業見込み「電子書籍」はまだありません