憧れのキャンパスライフ。しかし大学デビューに失敗したら最後、悲惨な末路が待ち受けています。
今回は薔薇色の青春を夢見るも挫折した主人公の残酷物語
森見登美彦「四畳半神話大系」をご紹介します
「四畳半神話大系」あらすじ
主人公は京都大学三回生の「私」。
薔薇色のキャンパスライフを夢見て入学したものの、サークル選びに失敗したのがもとで早々に挫折し、貧乏下宿でひねもすくだを巻く灰色の青春を送っています。
下宿の四畳半にこもった「私」は、あの時別のサークルを選んでいたら違った未来があったのではと妄想。
すると「私」がそれぞれ異なるサークルに入った、あるいはどこにも入らなかったパラレルワールドが分岐し、やがて四畳半の枠組みを超えた壮大な神話へ繋がっていきます。
私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい! さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。
出典:Amazon
著者 森見登美彦 出版社 KADOKAWA 発売日 2008年6月1日
「四畳半神話大系」ネタバレ感想
森見登美彦「四畳半神話大系」はアニメ化もされた青春SF小説の傑作。
本作の主人公は想い人に告白もできず、日々悶々とリビドーを持て余す冴えない京大生「私」。
彼が住んでいる下鴨幽水荘は、実在する京都大学吉田寮がモデルになっています。
本作は「私」の私小説ともとれる、純文学風のくどい文体や言い回しが特徴。そのため少々敷居が高いですが、慣れてしまえばかえって癖になります。
「私」のキャラクターも秀逸で、いわゆる真面目系クズに分類されるかもしれません。
下半身の別人格にジョニーと名付けてたびたび語りかけるなど、モテない男子学生特有の自虐的なギャグには吹き出しました。
「私」を取り巻く愉快な仲間たちも忘れてはいけません。
特に腐れ縁の悪友・小津はもうひとりの主人公ともいえるエキセントリックな存在感を持ち、全パラレルワールドであっぱれなトラブルメーカーぶりを発揮しました。
「私」が恋する黒髪の乙女・明石さんの、我が道を行くクールさも素敵です。
普段の言動は惚れ惚れするほど男前なのに、天敵の蛾を見るなり飛び上がるギャップがたまりません。
「私」の妄想が生み出したパラレルワールドがどうやって収束していくのか、終盤の奇想天外な展開には度肝を抜かれました。
「四畳半神話大系」見どころ
本作は童貞をこじらせた非モテ大学生のしょっぱい青春を描いた小説と見せかけ、終盤では貧乏下宿の四畳半が宇宙的な広がりを見せるSFにギアを切り替え、誰にもまねできない森見ワールドを展開します。
「私」がロビンソン・クルーソーさながら無限に広がる四畳半を放浪する短編は、全く先が読めずにハラハラドキドキしました。
「私」が天敵と毛嫌いする小津も、最初はうざかったのにどんどん親しみが湧いてくるから不思議です。
モラトリアム全開の「私」の独白の痛さに共感し、下鴨幽水荘名物ゴキブリキューブに腹を抱えて笑ったあとは、明石さんとの初々しい恋模様にキュンとするもよし、友達のために一肌脱いだ小津の男気に感動するもよし。
作者の森見登美彦は京大卒であり、学生時代の体験を参考に鴨川べりに等間隔に並ぶカップルを描写するなど、くすりと笑える「京都あるある」描写を織り交ぜてきます。
「あの時もしこうしていたら」と妄想した経験は誰にでもあるはずですね。
それが現実逃避に終わらずパラレルワールド分岐のトリガーになったら、別世界で幸せを掴めるでしょうか?
本作は各ラレルワールドの「私」の二年間を書くことで、自分が変わらなければ結局同じ、と答えを出しています。
とはいえ、どのパラレルワールドでも「私」が小津に付き纏われて明石さんに恋する運命は変わりませんでした。
世の中には切っても切れない縁があると思うと、まんざら捨てたものでもないですよね。
本作を読めばきっと京都に行きたくなります。実際の京都大学もこんなにカオスなんでしょうか?